「scott−tiger」(ヒナキさんのサイト)で1万HIT記念フリーとして配布されていらしたのをいただきましたSSです。
コメントもまんまいただいてきました。
こちらではうちの主人公ちゃん名、「東雲雫」で展示させていただいております。
零一の「『愛しい』の部分」のくだり、いいですねぇ…。
色変換部分がちょっと見えにくい状態になってしまったのですが、コダワリですんで変えられません!(すみません)。
この色がイイのです。
ヒナキさん、素敵SSをありがとうございました!
綺麗に飾れなくてごめんなさい(泣)
□素粒子は夢をみる
「零一?」
どうした。
「今日はなんの日か知ってる?」
ん? 何か特別な日なのか? 君の誕生日でもないし…
「違います」
歴史的に有名な事件があったのか。待ちなさい、今日は何の日のサイトで調べてくるから…
「あのう、そういう一般のサイトには載ってません…」
何? また違うのか。
待ちなさい、あのサイトにないということは個人的な記念日か何かだな。
「そこまでは合ってます」
そうか、それは良かった。
しかしおかしい、この間、2ヶ月くらい前だったか、「交際し始めて1周年記念日」とやらを覚えていなくて泣かれたばかりだ(あれには弱った)。ほかに何か記念になるような出来事があっただろうか?
初めて何かをプレゼントした日…は交際する以前の話だから、今日が記念日に該当するはずはない。
初めて、その、なんだ、なんというか、君から「初めて」をもらった日は1周年記念日からもう少し後だが(どれくらい後だったか? そんなことはどうでもよろしい!)、今日という日とは無関係…だと思う。おそらく。
「降参?」
何を言う、俺は生まれてこの方降参などしたことはない。氷室零一に敗北はない。絶対思い出してみせる。
「無理しないでいいのに…」
何だろう? 記念日という類のものではないのだろうか。
ん? まさか俺の誕生日!? …違うな。全然、違う。
最近どうも自分の誕生日を忘れて困る。俺はもともと祝ってもらってもうれしいほうではなかったし、第一もう祝ってもらってもうれしい年でも
「何遠い目してんの」
いかんいかん。
「ヒントあげようか」
何、助け舟を出そうというのか。ヒント、それは試験中にガイドブックを盗み見るような行為。断じて自らに許すわけにはいかない。
「絶対思いつかないと思うんだけど…」
言ったな。そう言われると俺としては引くに引けなくなるではないか。
「分かりました、ヒントを出させてください! お願い、零一」
そうか、そういうお願いならば聞いてやることにやぶさかではない。
「1万、です」
1万? 単位は何だ。
「それを言うとヒントでなくなるじゃないの」
そうだった。
なんだろう。1万、1万…俺が
雫に初めて1万円貸した日から1万年目…
違うな。どう考えても違うな。
「失敬な。零一にお金を借りたことなんてないわよ」
そうだった。俺は人と金の貸し借りをするのはキライだ。主義に反する。なぜなら金の切れ目は縁の切れ目と…
「また脱線してる」
よく分かったな。
「……………もういいです。話が終わらないんで答えを言います」
そんな。君はどうしてそう気が短いのだ、もう少し時間を…
「今日で零一のカノジョになってから1万時間、つまり、13ヶ月と26日たちました!」
なにぃ?
待ちなさい。君はどういう計算でその解を求めたのだ?
「どういう計算って…」
いいか。1万時間。1日は24時間だから日に直すと416日と16時間。これを月に直すとすればだ。30日ある月と31日ある月がある、それはどうしたのだ?
「…めんどくさいから1ヶ月は全部30日として計算しました」
なんといういい加減なことを。それでは数日の誤差が出ることになる。そんなことは断じて許されない。
「…なんか趣旨がずれてる気がするんだけど…」
わ、わかった。そんなに目をうるませないように。ケチをつけたわけではないのだから。
「零一って私のどういうところが好き?」
はあ?
答えをばらしたと思ったら何を籔から棒に。あまりに驚きすぎて目の前がかすんでしまったではないか。
「違います。眼鏡がずり落ちてるだけです」
…冗談だ。そんなことは分かっている。君たちの言う「ギャグ」というものだ。
「なんかのらりくらりと、答えずに逃げてませんか」
そ、そんなことはない。
「だから、どういうところが好きなんですか」
うーん…
うーん………
そうだ。
ここが好きだ、と一言で言えるなら、それが無くなったら好きでないことになってしまう。俺はそういうふうな、断片的な人の好きになり方はしない。もっと全体的かつ包括的なものだ。
そうだ、この答えでどうだ。完璧だろう。
「それ…どっかの本で読んだような気がします」
なんということだ。君もあの本を読んでいたのか。しまった、もとい、意外だった。
「カマかけてみただけだったんですけど、やっぱりそうだったのね…」
ぐっ。
「そんなに言えないんですか」
違う。言えないのではなく、これは非常に…言いづらい。
いつもの屈託のない笑顔。
その裏にある泣き顔。
寂しがりやのくせに、ひとりで立とうとするところ。
落ち込んでいる人を見ると、つい楽しませようと張り切りすぎて、自分も落ち込んでいたことを忘れてしまい、後に反動でどっと落ち込んでしまうところ。
たまに口をあけて寝ていること。
その時、ごくたまに、俺の名前を呼ぶこと。
(でも朝起きると少しも覚えていないこと)
わけの分からないゲームをやりながら本気で泣いているところ。
(そして俺にも同意を求め、いっしょに泣くことを要求するところ)
長いメールや短いメール、いろんなメールをもらって読んでは、ひとりで泣いたり笑ったり怒ったりしているところ。
うれしいくせに、うれしいからこそ返事を書くのが遅くなって、毎回うんうんうなりながら書いているところ。
受け入れられたいから、受け入れて欲しい人から離れていく矛盾した行動。
失うくらいなら最初から触れないほうがいいという後ろ向きな考え。
たまにふと見せる真剣な横顔。
俺が声をかけると見せる、とび切りの笑顔。
まだまだある。
ひとつひとつが限りなく愛しいなどと、こんな俺はどの顔で言えばいいのだろう?
ひとつひとつが君という女性を構成していること、そんな君に出会えたということこそ、俺にとってあまりに奇跡のようなできごとだというのに。
「…もう、いいよ。言わなくて」
怒ったのか?
「ううん。なんか顔見てたらなんとなく分かったから。考えてること…」
そんなに頬を真っ赤に染めるものではない。
君をまともに見られなくなってしまうから…。
「ねえ?」
…なんだ。
「20000時間記念日も、やっていいかな?」
もちろんだ。やりなさい。君の望みは俺の望みだ。
その時までには、ちゃんと口に出して言えるようになるだろうか?
保証はできないから、その前に今、教えてあげよう。
どんなに君を愛しているか、言葉よりももっと伝わるやり方で…
雫。愛している。
(03.05.08 了)
□あとがき
おかげさまで5桁の大台に乗りました。カウンタには数字以上の意味はありませんが、来てくださる方にお礼をするよい機会ですので、「1万」にちなんでこんなのを書いてみました。
こんなのでよければフリーにしますのでお持ち帰りください。ちなみにこれ、30作目みたいです(カフェ作品除き)。